3Dプリンタの基本

ASTM International認定の7種類の造形方式を詳しく解説

7種類の造形方式

3Dプリンタの7種類の造形方式分類図

3Dプリンタの分類

2012年ASTM International(旧称American Society for Testing and Materials)はAdditive Manufacturing(付加製造)を7種類に分類しました。

方式により造形物の特性があり、用途によって使い分ける必要があります。現在では造形精度の向上、造形速度の高速化が図られ、金属、セラミック、複合材料など扱える材料も大幅に拡充されました。

造形材料は液体(光硬化性樹脂)、フィラメント状(熱可塑性樹脂)、粉末状(金属・樹脂・セラミック)などの形態で供給されます。これらの材料を熱エネルギーや光エネルギーにより選択的に硬化・溶融させて立体物の断面形状を形成し、それを順次積層することで三次元形状を造形します。

材料押出法、Material Extrusion

最も普及している3Dプリンタの造形方式です。熱可塑性樹脂のフィラメントを加熱されたエクストルーダで溶融し、高温のノズルから押し出して造形エリアに吐出します。
○造形プロセス
溶融した樹脂は造形エリアで冷却・固化
3Dデータの断面形状に沿って材料を吐出
造形テーブルを一層分下降させ(またはノズルを上昇させ)
次の層の断面形状を吐出
この工程を繰り返して立体形状を造形
○特徴
中空部分はハニカム状やジャイロイド状などのインフィル(充填)パターンで造形可能
比較的安価で操作が簡単
○注意点
フィラメントは湿気を吸収しやすく、適切な保管が必要
エクストルーダとノズルは造形時に高温になるため取扱注意
オーバーハング部分にはサポート材が必要
積層痕が表面に現れやすい

材料押出法(MEX)の仕組み図解

液槽光重合法、Vat Photopolymerization

光硬化性樹脂(レジン)を光エネルギーによって硬化させる造形方式です。
○造形プロセス
プロジェクターが槽の下部から3Dデータの断面画像を照射
光硬化性樹脂が断面形状に沿って硬化
ビルドプラットフォームを一層分上昇
新しい樹脂層が造形エリア下に流入
次の断面形状を照射して硬化
この工程を繰り返して立体形状を完成
○特徴
精密造形が可能
積層痕が目立たない滑らかな仕上がり
細かいディテールや複雑な内部構造も造形可能
研磨、彩色などの表面処理が容易
○注意点
オーバーハング部分にはサポート材が必要
造形後にUV光で追加硬化が推奨
光硬化性樹脂は遮光保存が必要
樹脂は皮膚刺激性があるため、手袋着用必須

液槽光重合法(VPP)の仕組み図解

材料噴射法、Material Jetting

産業用・業務用3Dプリンタで採用される高精度造形方式です。インクジェット技術を3D造形に応用した技術です。
○造形プロセス
複数のインクジェットヘッドから光硬化性樹脂を微小液滴として造形エリアに噴射
3Dデータの断面形状に沿って材料を配置
紫外線ランプ(UV-LED)を照射して液滴を瞬時に硬化
造形プラットフォームを一層分下降
上記工程を繰り返して立体形状を完成
○特徴
超高精細、積層痕がほとんど見えない滑らかな表面、高い寸法精度
透明、半透明、不透明材料
CMYKカラー材料による多色造形
ゴム状材料、高耐熱材料、生体適合材料
ロストワックス鋳造用パターン
1回の造形で異なる物性部品を製作
溶解性サポート材により後処理が簡素化
○注意点
インクジェットヘッドの定期清掃が必須
光硬化性樹脂は遮光・温度管理が重要
複数ヘッドの位置精度調整
紫外線による皮膚・目への影響防止
樹脂の揮発成分対策
未硬化樹脂との直接接触回避

材料噴射法(MJT)の仕組み図解

結合剤噴射法、Binder Jetting

粉末材料に液体バインダー(結合剤)を選択的に噴射して結合させる造形方式です。業務用・産業用3Dプリンタで広く採用されています。
○造形プロセス
造形エリアに粉末材料を均一に敷き詰め
インクジェットヘッドから3Dデータの断面形状に沿ってバインダーを噴射
カラー造形の場合、CMYKインクを同時噴射
バインダーにより粉末粒子が結合
造形エリアを一層分下降
次の粉末層を敷設
上記を繰り返して立体形状を完成
圧縮エアーやブラシで余分な粉末を除去
結合した造形物を回収
未使用粉末はふるいにかけて再利用
○特徴
未結合粉末が物理的なサポート材として機能
内部中空構造、アンダーカット形状も造形可能
CMYKインクによる多色造形
○注意点
粉末粒子による粗い表面
細かいディテールの再現に制約がある
機械的強度が低い
粉末飛散防止、作業者保護が必要
粉末の湿度管理、劣化防止
脱粉、焼結炉などの設備が必要

結合剤噴射法(BJT)の仕組み図解

粉末床溶融結合法、Powder Bed Fusion

粉末材料をエネルギービーム(レーザーまたは電子ビーム)で選択的に溶融・焼結して造形する方式です。産業用3Dプリンタの主力技術として積極的な研究開発が進められています。
PBF方式の分類には、レーザー方式と電子ビーム方式がありますが、金属のレーザー方式について記述します。
○造形プロセス(レーザー方式)
リコーターまたはローラーで粉末を均一に敷き詰め
ガルバノミラーでレーザーを走査
3Dデータの断面形状に沿って粉末を溶融
溶融部の適切な冷却
造形エリアを一層分下降
次の粉末層を敷設
造形完了まで繰り返し造形物を完成
造形チャンバー内で冷却
未溶融粉末の除去
必要に応じてサポート材除去
○特徴
ステンレス鋼、チタン合金、アルミ合金、ニッケル基超合金、マルエージング鋼などに対応
急冷による残留応力で変形が発生する場合がある
サポートの目的は、熱変形防止、オーバーハング部の支持、造形プラットフォームへの固定
高密度の立体物を造形することができる
優れた機械的特性
内部中空構造、ラティス構造も造形可能
○注意点
粉末品質管理
プロセス最適化
熱処理、表面仕上げ、寸法精度向上
粉塵密閉状態での管理
金属粉末の酸化防止

粉末床溶融結合法(PBF)の仕組み図解

シート積層法、Sheet Lamination

薄いシート材料を積層し、接着と切断を組み合わせて立体形状を造形する方式です。他の3Dプリンティング方式と比較して装置メーカーは限定的ですが、特定用途で有効な技術です。
○造形プロセス
ロール状のシート材料を造形エリアに送り込み
ローラーでシートを造形エリアに密着・接着
刃で3Dデータの断面輪郭を切断
造形に不要な部分を粗く除去
造形プラットフォームを一層分下降
新しいシートを供給し上記を繰り返し
不要なシート材料の除去
必要に応じて表面仕上げ、樹脂含浸など
○特徴
カラー印刷されたシートで多色造形
紙系材料は非常に安価
○注意点
層厚による段差が顕著
内部の不要材料除去が困難
層間の接着強度が課題
材料の異方性による変形
紙系材料の経年劣化

シート積層法(SHL)の仕組み図解

指向性エネルギー堆積法、Direct Energy Deposition

この方式は、レーザーや電子ビームなどの高エネルギー熱源を用いて、供給された金属粉末やワイヤを瞬間的に溶融し、母材上に直接堆積させる3Dプリンティング技術です。
○特徴
ノズルから粉末材料と不活性ガス(アルゴンなど)を同時に供給し、レーザーで溶融・凝固させる
5軸以上の多軸制御により、複雑な角度での造形が可能
既存部品への材料追加や損傷部の修理・補修に優れている
航空宇宙部品の修理・改修
ハイブリッド製造(切削加工との組み合わせ)
○注意点
表面粗さが粗く、後加工が必要
オーバーハング形状を造形するのには適切ではない
他の造形方式に比べて寸法精度が劣る

指向性エネルギー堆積法(DED)の仕組み図解

3Dプリンタの活用

用途に応じて造形方式を選ぶ

○製造方法の選択
3Dプリンタは現代のモノづくりにおいて強力なツールですが、効果的に活用するには適切な知識と選択が必要です。まず、3Dプリンタと従来の切削加工のどちらが適しているかを検討することから始めましょう。
○造形方式の選択基準
材料から選ぶ→樹脂系、金属系、セラミック
形状・用途から選ぶ→高精度・滑らかな表面、機能プロトタイプ、最終製品、大型造形
○選択肢の特徴
条件によっては選択肢が一つに絞られる場合もあれば、複数の方式から選択できる場合もあります。コスト、精度、材料特性を総合的に判断しましょう。

3Dプリンタ方式選択の考え方

モノづくりと3Dデータづくり

○従来製法では不可能な形状
内部に複雑な中空構造、アセンブリ不要な可動部品、軽量化と強度の両立
○効果的な検証プロセス
初期検証MEX(FDM)方式を使用、材料費・ランニングコストが安価、操作が比較的簡単、PLA、ABS、PETG等で特性比較可能
○3Dデータ作成時の注意点
各方式の特徴を反映した設計、サポート材を除去しやすい設計、後処理前提とした設計
一般的なCGソフトで作成されたデータは、3Dプリンタでエラーになる場合があります

モノづくりと3Dデータづくり